劣等感・幸朋カウンセリングルーム用語集

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用語集 『劣等感』(自信が持てない)

英語では劣等感を inferiority complex、つまり「劣等(感)コンプレックス」と表現する。
これは「劣等感」というものが、例えば、足の遅い人が足の遅いことを、視力の低い人が視力の低いことを、自分の劣等な部分だと単純に自覚しているのとは違うことを意味する。

つまり、劣等感が形成されるについては、単なる自分の劣等な部分の正確な認識よりも、より複雑で厄介なプロセスがあるのである。

例えば、集団の中で周りのことに人一倍心配りをし、人に迷惑をかけないよう、あるいは誰かが辛い思いをしてはいないかとアンテナを張っているような、調整型の性格の人が、誰かから「君はちっとも周りのことを考えていない」と非難された場合、どういったことが起きるだろうか。

もちろん、安定した人間関係の中で正当な自己評価を築いている人だと、きちんと怒りを覚えたり、「この人は見えていない人だなあ」と、逆に非難した人を見下ろすことができる。
しかし、自己評価が安定していない人の場合、実際に周りのことを考えていない人が同じことを言われるよりも、はるかに混乱が深い。
さらにはこれを長期間繰り返しやられたり、別の人から同じように言われたりすると、ほぼ確実に深い劣等感が形成されることになる。

また洞察力が高く、ある判断を行なうについても、前後の状況や文脈を遠くまで見通して考えるタイプ、すなわち「物事の関連付けや体系化」の能力(統合性)の高い人が、逆にその能力の低い人たちに囲まれて生活している場合、劣等感を形成してしまうのは、まず例外なくその能力の高い人の方である。

その人たちは、自分のことを「考えすぎてしまうタイプ」あるいは「感じすぎてしまうタイプ」と考えており、うつや摂食障害を発症する人の中には非常に多く、さらには家族関係の問題を抱えていることが圧倒的に多い。

双極性障害や大うつ病を除くうつや、摂食障害の人は、例外なく自分の性格に対する強い劣等感を持っているが、こうした劣等感は「本来ならば他者に向けられるはずの攻撃性」が自分自身に向かってしまっている結果である。
つまり、本当は相手の言動のほうに問題や稚拙さがあるのに、相手の数が多いと、「おかしい(未熟な)のはあなたたちだ」とはなかなか思えず、本来問題のない自分の方を責めてきた結果なのである。
当然ながら、こうした「間違った自己否定」が度合いを強めると、自傷の衝動や希死念慮が強まることになる。

こういった人の体験世界は、「どれほど完璧にやろうと頑張っても、人並みですらない自分」ということになっており、したがって出口は見えない。
そもそも自己評価・他者評価が大きく間違っているのだから、出口の見えないのは当然である。
したがって、この人が劣等感から抜け出すためには、正しい自己評価のみならず、正確な他者評価がまったく同等に必要である。
というよりも、正確な自己評価のためには、正確な他者評価が不可欠な裏づけになる、と言った方がいいだろう。

ところで、我々自身はあまりに慣れすぎて自覚できないが、日本の家庭では、一般的に容姿のことをはじめ子どもを褒めるということをあまりせず、何かにつけて、とりあえずけなしてしまうことが極端に多い。
おそらくこれは、順送りに劣等感を植えつけておくことで、目上の者が目下の者をコントロールしやすくするというパターンが、歴史・文化的に習慣化した結果ではないかと思われる。
江戸期に武士から民衆の階級に至るまで教育された、儒教思想が影響しているのではないかとも考えられるが、実際にはもっと歴史的に根の深いものであろう。

インドネシアのバリ島に住む人々は、平均的な日本人と同じくシャイなことで有名だが(もちろんどちらにも、そうでない人々はいる)、グレゴリー・ベイトソンというアメリカの文化人類学者が、「ダブルバインド」という独特の親子関係を発見したのは、まさにバリ島でのことだった。
「ダブルバインド」とは、一言でいうと、本来何も問題のない子どもに対し、「自分は劣等である」という認識を無意識レベルに植えつけることを目的とした、一般家庭における一種の社会性教育の一形態である。
少なくとも筆者は、これが頻繁に行われるところを日本とバリ島以外に知らない(海外での体験はきわめて乏しいので、もし知っている方がいればご一報を!)。

実は、日本とバリ島には「先住民」と「移住民」(日本では縄文人と中国大陸の人々)とが、一方的な支配によらず融合して、一つの国民(島民)を形成したなど、興味深い共通点がいくつかある。
こうした点についての考察は、今後、日本人特有の心理傾向を読み解く鍵になるかもしれない。

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